農業

■海洋深層水の農業における施用効果

○ミネラル効果
植物の生育にとって多量必須元素(炭素、水素、酸素、窒素、リン、カルシウム、マグネシウム、硫黄)および
微量必須元素(鉄、マンガン、亜鉛、銅、ホウ素、モリブデン、塩素、ニッケル)の多くが海水に含まれるミネラル類です。
深層水の主要成分であるマグネシウムは、植物が光合成をおこなう葉緑素の中心的な構成元素であるとともに、
葉緑体における炭酸ガスの固定を活性化し、活性酵素の発生を抑える働きもします。
ミネラル効果としては、品質向上、病害抑制、土壌生物活性化、有機肥料発酵促進などが経験的に知られていますが、
必ずしも科学的に検証されているわけではないようです。

○塩素効果
塩素は多量に海水に含まれていますが、植物の微量必須元素として最近認知されるも、植物側からの要求度は高くありません。しかし、光合成の一部のプロセスでの触媒機能、また、塩素の殺菌作用による病害抑制効や農薬量減量効果が知られています。
いずれにしても、このような塩素の効果は、低濃度での施用、葉面散布によってもたらされるものです。

○塩ストレス効果
致命的なストレスを生じない程度の濃度で深層水を植物に施用することで、抗酸化機能や浸透圧調節機能を植物内に発現させ、糖、アミノ酸、抗酸化物質などの有用物質を収穫対象器官に高濃度に集積させることが期待されます。国土の大部分が塩を含有する土壌で、しかも地下水は化石水でこれも塩を含有することで知られるイスラエルは、オレンジ、アーモンドやヤシが林立する農業国であり、この国で生産されるイチゴやオレンジの食味はかなり評価が高いものです。この理由の一つは「塩ストレス」によるものと言われています。

*出典・参考文献:
農業における塩の利用 九州大学大学院農学研究院生産環境科学部門教授 北野雅治
技術体系-資材156-46-「海洋深層水」

 

■深層水の農業への活用事例

・深層水原水の塩分でトマト等の作物に塩の付加をかけ、食味を向上
事例紹介:アムリタファーム (ニセコ町)

・深層水の高ミネラル脱塩水(ED水)で植物のミネラル不足を解消
事例紹介:アムリタファーム (ニセコ町)

・深層水の脱塩水で農薬を希釈し、効果向上・経費節減
事例紹介:馬場農園 (余市町)

これらの事例をご参考にして、ぜひご自分の畑や農作物への岩内深層水の利活用を
ご検討いただき、試験栽培等を行っていただきたく考えています。導入のご検討の際にはぜひ地場産業サポートセンターにご相談ください。

■農業と塩のはなし

海に囲まれた日本では江戸時代から身近にある資源としての海水や海藻が農業に使われていて、
次のような話が残っています。

・栽培土壌へのミネラル補給には海水散布、ならびにカルシウムの補給には貝殻の細粉を施用する。(江戸時代の農書「農稼肥培論」)
・寒中に海水を汲み取ってムギ畑の肥料にすると良い。満潮の時に汲んで桶に入れ、これに風呂の残り湯を混ぜる。そして下肥を混ぜて使うとムギの細根が十分に広がる。(百姓伝記、静岡・愛知)
・ナスが青枯れするようなときは塩汁や海水などをかけると良い。(41巻続物粉、高知)
・サツマイモを作る土地がやせていたら、海岸に打ち上げられた海藻を冬のうちに拾っておいて腐らせ、それを根元にひとつまみずつ置いて植えればイモが良くできる。(砂畠菜伝記、福岡)
・ムギの肥料には水肥の中に海水を2割ばかり入れると良く、すべての肥料は食べ物の塩味程度に塩分を加えた方が良い。(農業巧者江御問下ケ並御答書、山口)

このように江戸時代からすでに特定の農作物に対しての海水の有効性が認められていたのですが、今でも全国の農業で海水や海洋深層水を活用した農業が行われており、以下にご紹介させていただきます。ただ、次のように農作物によって耐塩性が強いものと弱いものがありますので、まずはご参考にしてください。

耐塩性が強い作物
アスパラガス、サトウダイコン、ブロッコリー、ワタ、オオムギ、トマト、キャベツ、ホウレンソウ、ナス、イネ、柑橘類、リンゴ、ブドウ、キウイ、イチゴ、チャ等

耐塩性が弱い作物
トウモロコシ、エンドウ、インゲン、ダイコン、キュウリ、ニンジン

<事例紹介>

塩トマト(北海道ニセコ町)
 写真:ソルトーマ栽培農家
平成22年、後志農業改良普及センターの提案で、蘭越町において水稲の育苗ハウスの後作利用として
塩分を加えた溶液を与えることで糖度を高めた塩トマト栽培の導入を始め、
平成23年、蘭越町内の2戸のトマト生産者圃場において、
北海道では初となる塩トマトの試験栽培が始まりました。
育苗のビニールハウスでポリエチレン製のポット式の栽培をすることで、土壌に影響は与えません。
試験栽培の結果、収穫された果実は慣行栽培と比較して果重で約2/3と小さかったものの、
平均糖度は10.3%と慣行トマトの平均5~8%よりもかなり高い数値が出ました。
また、慣行栽培と比較して病害虫の発生が抑えられ、地域への波及が推進されました。
平成24年にはニセコ近郊の農業者からも希望があり、
蘭越町4戸、ニセコ町3戸、真狩村1戸の計8戸が本格生産に取り組みました。
平成26年には倶知安町も加え、4町村9戸、栽培株数も23,000株に拡大、テレビ、ラジオ、雑誌等で紹介され、
販路も市場外に拡大していきました。栽培農家の中には現在もその塩分に岩内深層水を使っているところもあります。

メロン(高知県土佐市、北海道共和町)
 写真;土佐農業協同組合組合員
高知県土佐市新居地区では2004年から潅水に室戸海洋深層水の濃縮液を活用したアールスメロンの栽培が始まり、
糖度14度以上、ミネラル含有量12%以上のものだけが「ミネラルメロン」として扱われ、各農業者が「プリンセスニーナ」「プリンセスメロン」などとして販売しています。
また、隣町の共和町でも数戸の農業者がメロン栽培に脱塩高ミネラル水の希釈水(10~20倍希釈)を潅水に、
あるいは葉面散布に使うなどの試験栽培を行ったことがあり、メロンのカンザシ(トンボ)の部分の葉茎の改良が見られる等の結果を残しています。

ネギ(千葉県)

平成14年10月、千葉県の西を通過した台風21号により、ほとんどの農地が海水を含んだ潮風により大被害を受けた中、ネギの畑だけは被害がなく、食べてみるといつもより美味しいネギに仕上がっていたことから、翌年から畑のネギに海水をかけ始めたそうです。
生育中期(彼岸過ぎ)から後期にかけて、海水の10倍希釈液を10aあたり150リットル以上、10~15日おきに5回以上散布。
「海っこネギ」として2006年から販売。葉折れが少なく太く重くなり、鉄分、カロテンが増加して、甘くて柔らかくなります。

キャベツ(茨城県)
 写真:具満タン素材集
こぶし大に育った段階と、収穫前の2度、キャベツに海水を散布。夕方なら50倍液、日中なら100倍液を10aあたり100リットル散布。「汐菜キャベツ」として販売。糖度が最大4度上昇し、硝酸態窒素が減少し、日持ちが向上しました。

たまねぎ(兵庫県)
海水の50倍液を10aあたり150リットル5日おきに散布すると、糖度が上昇し、通常のタマネギよりも高価な値段で販売しています。

ナス(高知県)
 写真:具満タン素材集
平成10年から、室戸の27戸が室戸海洋深層水を利用して竜馬ナスを栽培してきました。
まろやかさや甘みが向上した、美味しい「深層水竜馬ナス」として販売しています。

ナス・トマト・キュウリ(秋田県)
並塩を定植1週間後から7~10日ごとに3回、株の周りを囲むように軽く一握り程度散布し、潅水。甘みが増し、長雨時でも病気に強くなります。

サトイモ(大阪府)
天然塩を株元にパラパラと撒くと連作が可能になったといいます。

九条ネギ(京都府)
粉砕塩を10aあたり50㎏手散布し、葉の青み、色つやを良くしています。

キャベツ苗研究(近畿中国四国農業研究センター)
セルトレイでの育苗終了前の5日間、塩化ナトリウムを0.3%になるよう添加した液肥を、1日1回底面給水。
硬く締まった苗(塩締め)、徒長が抑制され、乾燥に強い苗になります。