深層水はサポートセンターのオープン以来ずっと使ってます (岩内町)

暖かい好天のなか、地元、北海道岩内町の水産加工会社、一八興業水産(いっぱちこうぎょうすいさん)の紀哲郎社長にお話しを伺った。

一八興業水産は大正3年の創業。身欠きにしんを始めとしてにしんの加工品で有名な会社で、活発に「にしんのおかげ」や「にしんすぱ」などの新しい商品も次々と生み出しておられる。2005年に岩内町地場産業サポートセンターで海洋深層水を供用し始めたときからずっと使っていただいている上得意様だ。

今日は一八さんのレトルト商品、「さかなかな」の仕込みの日で、トマトソースに丸い魚の団子が5つ入ったもの。徐々に人気が高まってきているらしい。その製造工程の一部にサポートセンターでの作業が入っている。

どれくらいの頻度でこのサポートセンターでの作業をされてるんですか?
「決まってないですね。いろんな商品を作ってるから、それらの仕込みの合間にっていう感じで、自分の都合で決めてます。今からこの魚の団子をこのオーブンで焼いてくんですけど、それが終わったら工場に戻って、団子を入れたパックにトマトのソースを入れて、それをレトルトにかけて出来上がり、トマトのソースは工場の方でもう仕込んであります。」

サポートセンターの調理実験室に去年導入されたスチームコンベクションオーブンを前に作業が進む。スタッフの方が3人、次々にトレーの上に工場から持ってきた団子をきれいに60個並べ、並び終えたトレーを5段、オーブンに入れて調理していく。
サポートセンター加工機器使用料

調理のレシピはどうやって決められたんですか?
「うちは魚の会社だから野菜には疎くて、いろいろと試行錯誤があったんだけど、結局は北海道の助けで小樽のイタリアンのシェフを紹介してもらって、そのおかげでこれで行こうっていう味に辿り着いたんです。魚のミンチはにしんとスケソウダラを混ぜたものですよ。」

このスチームコンベクションオーブンの使い勝手はいかがですか?
「このオーブンがここに入るまでは、そっちにあるフライヤーで揚げてたんですけど、油の具合を管理したり、揚げた後の片付けも大変で、今の何倍も時間がかかってましたね。それでこれが入ってきたら、一度に大量に調理できるし、オーブンに入れて数分で焼き上がって、ほんとうに便利になりましたね。調理時間とか温度とか、実際ここで何度も何度も試して、これだ!っていう風に決まったんです。今日は400袋程度作るんだけど、ここでのこの工程は1時間余りですね。」

オーブンから出てきた団子をスタッフさんたちが並べた包装容器の中に5つづつ入れていく。さすがに手慣れた感じで、皆さん素早い。包装袋に団子を全部入れ終わったと思ったら、ほぼ同時に出発準備も完了。実に効率が良い。車で工場へ。サポートセンターからほど近い。

「ソースはトマトベース、1回に50kgのトマトを使うんだけど、たまねぎ、にんにく、それにワインなんかも入れて味付けしていますね。岩内産にこだわりたいけれど、残念ながらトマトは余市から仕入れたり、なかなか思い通りには行かないです。」
団子の入った包装パックの中にトマトソースを入れ、余分な空気を出して封をし、レトルトの機械に入れる。この機械は数年前に導入したもので、それまではサポセンでレトルト加工していたそうだ。1段14パックを7段、一度に98パックが高温のスチームで殺菌されていくが、これはサポセンのレトルト機械よりも容量が大きい。これで賞味期限が1年の商品になる。

ブザーが鳴り、7トレーの出来上がり。次の7段をレトルトの機械に入れて扉を閉じて、スイッチオン。すぐさま取り出したばかりの7段をテーブルの上に並べながら「これで出来上がり、冷めたら箱詰めです。」

さて、工場の奥に数の子が漬け込んであるのが目に入った。これは数の子ですよね?
「そう、数の子を深層水に漬けてるところですよ。それからこちらのバケツには黒松内のチーズの会社からもらってきたホエ―が入っててるんです。乳製品が魚の臭みに良いというのはどういう効果なのか科学的には説明できないけれど、うちでは魚の臭みを取るのに使ってるますね。牧場ではホエーを処分するのにお金がかかるから、うちが引き取るとお互い助かるっていうことですね。」

ホエーという言葉は北海道に住み始めたときに聞いて知っていた。ヨーグルトの表面に浮いている水分がそれである。牛乳は8割程度が水分で、チーズを作るときなどに牛乳に含まれる成分を固めると、副産物として大量のホエーができる。ネット上では肉を漬け込んだり、パンケーキミックスを溶いたりすると良いとは書いてあるが、魚の加工に使うというのは初めて耳にした。
会社の入り口には直売店があり、お客さんが買い物に来ておられるのだが、その店の右側に事務所があって、紀社長とともに会社を経営しておられる娘さんの紀加奈子氏とお会いできた。

ところで、レトルトの商品って、この会社の売上全体の何パーセントくらいなんですか?
「やっぱり数の子や従来の製品が主流で、レトルトは売り上げでいうと5%ぐらいですね。うちの商品は全国の市場に卸してて、地域でいうと、一番多いのは東京と新潟ですかね。」
いや今日はありがとうございましたと、去ろうとして、あ、これ新しい商品ですね、たこの煮付け。1つください、と立ち止まる。
「‘一八食堂’は4つで千円なんで…」
ああ、そうですよね。何種類もある食堂メニューから4種の袋を選び、千円を渡して、いやぁ、今日はどうもありがとうございました。

取材日 2022年4月23日